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「統合失調症患者の現実感のモニタリングに関わる神経活動の障害」

統合失調症は有病率が100人に1人とも言われますが、この病気では人が通常持っている現実感が障害されると言われています。

この現実感というのは、端的に言えば実際に見たものと頭のなかで空想したものの区別が付くことだと思うのですが、この区別がなくなると自分が想像したことや考えたことが外側のリアルとして感じられるため、様々な症状、幻聴や幻覚、誰かに操作されているという感覚が出てくるのではないかと思います。

それにしてもこの現実と想像というのは脳の中でどうやって分けられるのでしょうか。

今日取り上げる論文はこの現実と想像の切り分けについて調べたものです。

結論を述べると脳の中でも高次の認知活動に関わる部分として前頭前野があるのですが、この中の一部分が現実と想像の区別に関わっており、統合失調症ではこの部分がうまく働きにくくなり現実と想像の区別がつきづらくなるのではないかということが述べられています。

【要旨】
統合失調症は幻覚や奇妙な行動、強い思い込みや自分が誰かに操作されているという感覚を伴う症状があり患者に強い苦痛を強いるものである。人間の基本的な認識要素として現実と想像を区別して自己の一貫性を保つというものがある。しかし統合失調症患者においてこういった神経基盤がどのようになっているのかを調べたものはない。今回機能的MRIを使用して文章の空白を埋める課題を行わせ(例;わたしは海で(   )を釣った)、その後それが自分が考えたものかどうかを判定させる課題を行わせた。結果統合失調症患者では正しく回答できている場合でも、本来そういった判断に係るはずの内側前頭前野吻側部の活動が充分でないことが示された。この内側前頭前野吻側部の活動が充分でないことが統合失調症患者の様々な症状の原因の一つになっていることが考えられた。

参考URL:Deficit in a Neural Correlate of RealityMonitoring in Schizophrenia Patients

コメント

少し詳しい話をすると

脳の中には「わたし」システムというようなものがあり、そのシステムを作る重要な領域として内側前頭前野というものがあります。これは脳の内側にあって外側からは見えないようなものなのですが

この内側前頭前野の先っちょの方の吻側内側前頭前野と呼ばれる場所が現実と想像の区別に関わっているそうです。

もう少し詳しくいうとこの領域は記憶の記憶に関わるような働きがあり

実際に見たことも頭のなかで想像したこともある種のイメージとして脳内に保管されると思うのですが

その保管されたイメージ(記憶)が実際に自分で見たり聞いたりしたものなのか、それとも単に自分で想像したり考えたりしたのかを区別するようなもので

記憶の記憶、つまりはメタ記憶に関わるようなところではないかということが述べられています。

さらには日常生活を安定して遅れている統合失調患者でも、この吻側内側前頭前野は十分に働いておらず、

それを代償するように他の広範な領域が課題を行っている時に健常者と比べて強く働いており

統合失調患者は疲れやすいという話を聞いたことがありますが、こういった脳の代償的な働きによるものなのかなと考えたりしました。

 

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