リーチ訓練はダイナミックなほうが良いか?
何かに手を伸ばす、何かを取るというのは、赤ちゃんがまだ移動できないうちから出てくるような人間の基本的な動作ですが、
果たしてこのリーチ動作に重要な要素というのはどのようなものなのでしょうか。
脳の中にはとりわけリーチ動作に重要な領域があり、その中の一つに頭頂間溝というものがあります。
この頭頂間溝は頭頂葉の後ろの方にあり、上頭頂小葉と下頭頂小葉を分けるような溝なのですが、
ここには様々な感覚情報が集まってくることが知られており、
その中の一部はとりわけリーチ動作への関係が深いことが知られています。
今回取り上げる研究はマカクザルを対象に神経線維の染色を行い、前庭系の情報がどのようにしてこの頭頂間溝につながっているかについて調べています。
具体的には頭頂間溝の中でも眼の動きの調整に関わりの深い外側頭頂間溝野腹側部(ventral LIP)と上肢の動きに関わりの深い内側頭頂間溝野吻側部(rostral MIP)に着目して調べているのですが、
引用:脳科学辞典「到達運動」
結果を簡単に述べると、これらの2つの頭頂間溝野は両側の内耳からの前庭情報が密に入力されること、
さらに頸部や上肢に運動指令を出している網様体脊髄路の遠心性コピー(頸や腕に対する運動指令のコピー)を受けていることが示されています。
これをもう少しわかりやすく書けば、
体がどっちの方にどれくらいの速度で動いたかという情報(前庭情報)と頸や腕を今からどのように動かそうとしているかという情報(網様体脊髄路の遠心性コピー)の両方の情報がリーチ運動に関わる頭頂間溝領域に流れ込んでいるということになります。
もっとシンプルに書けば、
脳の中のリーチ動作領域に、体の揺れの感覚がしっかりと取り込まれているということになります。
生活場面での実用的なリーチ動作の獲得を目指すのであれば、ダイナミックな要素を取り入れたリーチ訓練のほうが前庭系に十分に刺激が加わり、頭頂間溝リーチ関連領域(LIP,MIP)への入力もよりしっかりしたものになるのかなと思いました。
【参考文献】
Ugolini G, Prevosto V, Graf W. Ascending vestibular pathways to parietal areas MIP and LIPv and efference copy inputs from the medial reticular formation: Functional frameworks for body representations updating and online movement guidance. Eur J Neurosci. 2019 Sep;50(6):2988-3013. doi: 10.1111/ejn.14426. Epub 2019 May 14. PMID: 31012519.