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我慢しているときには何が起こっているのか?

アフォーダンスという言葉があります。

これは添付の図に示したようにボタンを見ると押したくなるし、ドアノブを見ると回したくなるような

対象物が私達になにかしら動作を迫ってくるような性質を指す言葉になります。

赤ちゃんのうちは目に見えるものをなんでもとったりなめたりしてしまいますが、流石におとなになると

きれいなものや触りたくなるようなものがあったとしてもすぐには手を出しません。

こういった我慢する能力があるので、熱いやかんに手を伸ばさなかったり、うまそうなビールが目の前にあっても乾杯の音頭が始まるまでは、手を伸ばさずに我慢できたりするのですが、

こういった物品のもつアフォーダンスに対抗して我慢しているときにはどのような脳波が見られるのでしょうか。

今日取り上げる論文は、キーボードのスペースキーを押すというシンプルな課題を行っているときの脳波について調べたものです。

A Central Component of the N1 Event-Related Brain Potential Could Index the Early and Automatic Inhibition of the Actions Systematically Activated by Objects

この研究では被験者に真っ暗闇の実験室に座らせて、目の前のキーボードのスペースキーの部分だけがぼんやり明るく光ったときにスペースキーを押すという課題を行わせます。

また対照実験として、ぼんやり明るく光るスペースキーを見るだけという課題、さらに明るく光る回数を数えるという課題も行わせ、それぞれの条件で脳波を取り、どのように違うかについて調べています。

事象関連電位とは?

脳波というのはばらつきが大きいのですが、それでも同じ条件で何十回も実験して重ね合わせて平均するとノイズの部分が少なくなって、課題の認知に特有な波形が浮かび上がってきます。

今回、研究の対象になっているのはこのN1と呼ばれる認知のごく初期(刺激提示後0.1秒以降)なのですが、

これは果たしてどのような意味合いを持っているのでしょうか?

結論から言うと、このN1は動作の抑制を反映しているというのがこの論文の主張になります。

この実験では実際にボタンをぼんやり光らせることでアフォーダンス(スペースキーを押したくなる?)を誘発するのですが

スペースキーを押す課題を行わせた結果を反応時間が早かったもの(上位三分の一)と遅かったもの(下位三分の一)の比較も行っています。

実験結果の一例を下に示すのですが、

図で見るように早くボタンを押せた緑色の波形を見るとN1部分で波が小さくなっているのがわかると思います。

ではなぜボタンを早く押せたときにはN1の波が小さくなっていたのでしょうか?

この論文の解釈としては、N1は動作の抑制を反映しているからだというものになります。

ボタンを早く押せる、言い換えれば素早く反応するというのは動作に抑制がかかっていないということとも言えます。

背後に立たれると条件反射的に相手を攻撃してしまうゴルゴ13でもないのですが、反射的に素早く行動するというのは

言い換えれば、抑制がかかっていない状態でもあります。

こういった解釈から、N1というのは動作の抑制を示す指標ではないかというのがこの論文の主張になります。

我が家には現在1歳数カ月の手のかかる子供がいて、目につくものを何でも手にとって我慢が効かないので大変困っているのですが、

きっと彼の脳波をとれたとしたら、きっとN1はずいぶん小さいのだろうなと思いました。

 

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