「自分と他人の痛みのイメージに関わる神経メカニズムを通して検証された共感機能」
ヒトは共感する生き物です。
それゆえ人間には他人の痛みをあたかも自分の痛みのように感じることが出来ますが、これは脳科学的にはどのように説明されるのでしょうか。
今日取り上げる論文は痛みの共感に関わる脳活動について調べたものです。
実験では自分が痛い目にあっている写真(金槌で指を叩く、手をドアに挟むなど)を見ている時と他人が痛い目にあっている写真を見せた時の脳活動を調べたのですが、どちらの脳活動も同じような領域が働いていることが示されています。
ただ他人の痛みを想像している時は記憶に関わる領域の活動が増えることから、他者の痛みを想像する時には自分の痛みの記憶というものが関係しているのではないかということが述べられています。
【要旨】
他者の視点で物を見られるようになるのは共感の第一歩である。
他者に対して共感している時、他者がどのように感じているのか、そしてその結果どう思うのかについて想像することが出来る。
しかしながら自分が痛い目にあっている状況と他人が痛い目にあっている状況を想像している時脳活動はどのように違うのだろうか。
今回機能的MRIを使用して自分が痛い目にあっている画面を見せた時と他人が痛い目にあっている画面を見せた時の脳活動の測定を行い、また同時にそれがどれくらいの痛みかを評価させる課題を行った。
結果、自分が痛い目にあっているのを想像している時も他人が痛い目にあっているのを想像している時も共に頭頂葉弁外部、前帯状皮質(ブロードマン32野)、前島皮質に活動の増加が認められた。
しかし自分が痛い目にあっているのを創造している方がより強い痛みをイメージする傾向があり、脳活動では二次体性感覚野、前帯状皮質(24a/24b)、島皮質本体に活動の増加が見られた。
また他人が痛い目にあっているのを想像している時は後帯状皮質、楔前部と側頭頭頂接合部に活動の増加が認められた。
これらの結果から自分の痛みと他人の痛みの想像には共通した神経基盤が関わること、またその相違も存在することが示された。
他人の痛みを感じている時は自他の融合が完全に起こっているわけではないことが示された。
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コメント
いろいろと苦労してきた人というのは優しいけれど、これは痛みの記憶が豊富にあるからなんだろうか。
少し詳しい話をすると
他人の痛みを想像している時に活動が増加する後帯状皮質というのは記憶に大事な海馬や海馬傍回がある側頭葉内側面との連絡が強く
それゆえ他人の痛みを想像している時は自分の痛みの記憶の再生が関わっているのではないかということです。
この論文の結論として他人の痛みと自分の痛みの想像は脳活動として完全に同じなわけではないとは言っているけれど
言い方を変えると結構な部分でかぶっているということなのかなと思ったり
あるいは痛みに打ち震える他者を抱きしめている時というのは
他人を抱きしめているようで本当は自分を抱きしめているのかなと思ったり
そんなことを考えました。
自分を愛することは大事なんだろうなと思います。