「ジェスチャーを観察している時の推定的ミラーニューロンシステムの情報の流れのマッピング」
ヒトは生まれついてのモノマネの天才です。
このモノマネ能力にはミラーニューロンシステムというものが大事だといわれていますが、はたしてこれはいったいどういうものなのでしょうか。
ミラーニューロンシステムというのはごくごく簡単に言うと、他人の動きを自分の動きに変換するようなシステムと言えます。
添付の画像でもないのですが、大人の真似をする子供というのはまず視覚システムで大人の動きを取り入れ、それを運動システムに送ることで、「見る」→「動く」の変換をしていると考えられています。
つまりミラーニューロンシステムというのは視覚システム→運動システムの流れとして捉えられてきたのですが、今日取り上げる論文は逆の情報の流れもあるんじゃないかということを示したものです。
日常生活を振り返って考えてみると、ゴルフやバットのスイングをビデオで繰り返し見る時には、頭のなかで「次はこう動くだろうな」と想像しながら視線を画面に追っかけるということがあるのではないかと思います。
従来のミラーニューロンシステムの考え方で言えば「見える」→「体が動く」というボトムアップ的な情報の流れだったのですが、こういった例を考えると「体を動かそうとして」→「見る」というトップダウン的な流れもあることが考えられると思います。
この研究ではジェスチャーを観察している時の脳活動を調べたのですが、「見る」と「動く」の情報システムの流れは双方向的で、ジェスチャーを理解しようとしている時には「動く」→「見る」の流れが強くなることが示されています。
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【要旨】
推定的ミラーニューロンシステムは厳密ななフィードフォワードシステムかまたは動的制御システムとして捉えられる。厳密なフィードフォワードシステムとして見るならば、動作を観察する時には情報の流れが側頭葉→頭頂葉→運動前野として捉えられ、この流れによって視覚情報が運動情報に変換され、そのことにより動作の意図を読み取るということが可能になると考えられる。しかし動的制御システムとして捉えるならば逆の情報の流れが優位になると考えられる。なぜならこのシステムは順モデルの抑制と逆モデルの賦活の組み合わせとして捉えることができるからである。本研究では推定的ミラーニューロンシステムの情報の流れを調べ、さらにジェスチャーを観察している時と安静時のミラーニューロンシステムの情報の流れの違いについて調べた。情報の方向性を調べるにあたってはグレンジャー因果性テストを用いた。結果、ミラーニューロンシステムの情報の流れは動的制御システムとして捉えられることが示された。つまり運動前野から頭頂葉、側頭葉中部への情報の流れが示された。この傾向はただ動作を見ている時よりもジェスチャーを理解しようとして動作を見ている時のほうが強かった。特に運動前野は他のミラーニューロンシステムの領域に情報を受け取る以上に情報を伝達していた。
参考URL:Mapping the flow of information within the putative mirror neuron system during gesture observation.
少し詳しい話をすると
ミラーニューロンシステムはざっくり言うと視覚(側頭葉)→情報の統合(頭頂葉)→運動準備(前頭葉)の流れとして考えられてきたのですが
この実験ではジェスチャーを理解しようとしている時の脳活動を見てみると運動準備→情報の統合→視覚の逆の流れが強かったということを示していて
つまりミラーニューロンシステムは双方向的なシステムで
視覚システム⇆運動システム の両方の流れがあるんだけれども
運動観察の最初の方では視覚→運動が強く、後半の方では運動→視覚のほうが強いというふうにバランスが変わることが示されています。
話は変わるのだけれども動的平衡という概念があって、これは止まっているようにみえる独楽はぐるぐる回っているだとか
月末の残高だけで見れば預金が動いていないように見えるけど、毎日膨大な借り入れと膨大な利益が上がっていて相殺されてそのように見えるだけだとか、そういったものです。
それでいけば私達の身体も日々膨大な細胞が死んで、新しい細胞が生まれて、あたかも変わっていないように見えるけど実際はものすごくダイナミックで、そんな状態を動的平衡というのだけれども
ミラーニューロンシステムのこの両方向の情報の流れというのは動的平衡の変化として捉えられないのかなと思ったり、
あるいは脳活動そのものを動的平衡の変化として捉えられないかなと思ったりしました。