判断におけるツートップ:アツい扁桃体とクールな前帯状皮質
「後味がわるい」という言葉があります。
悪気なしに、正しいこと、合理的なことをしたはずなのになんだか「後味がわるい」。
正しいことをしたはずなのに「後味がわるい」、これはどういうわけでしょう。
ヒトの脳の内側面に帯状皮質といわれる領域があって、そこの前の方、前帯状皮質といわれる領域があります。
この領域はサルにレバー押し課題なんかをさせると、課題がうまくいったか失敗したかを評価するような機能があることが知られています。
つまり前帯状皮質には「これはうまくいった」「これはうまくいかなかった」というような判断に関わるような働きがある。
近年の研究から扁桃体もこの前帯状皮質と同様に動作の成功/失敗の評価に関わっているのではないかということが言われているようです。
今日取り上げる論文はこの事について、深く掘り下げたものなのです。
結果かから言うと、この前帯状皮質と扁桃体の活動というのは似ているようでだいぶ違うようです。
ではどう違うか?
前帯状皮質というのは行った行動がうまくいったか、いかなかったかをモニターする、つまり動作の結果をモニターする。
これに対し、扁桃体は動作の結果、自分が不快になったか、ならなかったかをモニターする。
つまり動作の結果から得られた感情を評価する。
言い換えれば、前帯状皮質というのはプレーを間違いなく出来たかどうかを評価する。
それに対し、扁桃体というのは自分が納得できるプレーが出来たかどうかを評価する。
そんな違いがあるようです。
【要旨】
「今回てんかん手術前の患者を対象に脳の深部に電極を設置し、失敗の察知に際し左の背側帯状皮質と内側側頭葉がどのように働いているかについて調べた。実験では被験者は改変されたgo/no go 課題を行わせ、数多くの失敗をさせた。結果、背側前帯状皮質が失敗の検出に関わっていることが課題試行中の脳活動の測定から示された。さらに左扁桃体も同様に失敗の検出に関わっていることが示されたが、その活動の仕方は背側前帯状皮質とは異なっていた。追加的に行われた機能的MRIを使用した同様の実験を行い、背側前帯状皮質と扁桃体の活動を比較したが同様の結果となった。これらの結果から左扁桃体はその試行を行っている時の情動状態を評価しているものと考えられた。それとは対照的に背側前帯状皮質はその試行の正否を評価しているものと考えられた。このようなことから自己管理システムは行動の結果だけでなく、行動の結果に伴う自己感情もモニターしていることが考えられた。」
コメント
まわりから見た結果と自分が感じる結果が違うということはよくあるんじゃないかと思います。
客観的に見れば全然OKなのに、本人が全然納得していないなんてことはよくあって
そんな時は扁桃体が強く活動しているのかなと考えたり
正しいことをしているのに心は泣いているというので「泣いて馬謖を斬る」なんてことわざもあったけど、そんなことかなと思ったり、どうやら合理的な判断とヒトの心が矛盾するということは結構な頻度であるのかなと思ったりします。
成功/失敗と満足/不満足というのは実は別々の尺度で
それぞれを前帯状皮質なり、扁桃体が担当して評価しているのかななどと考えたりしました。
後味の悪さというのは、多分結果に対する扁桃体の反応で
売春も悪いことをしてるんじゃないからいいじゃない、というのも聞きますが
もしそれに対して扁桃体が反応して、何らかの後味の悪さを感じるのであれば、おそらく、少なくても良いことではないだろうと思ったりします。
40を前にして、未だに何が正しいことで悪いことかというのは迷ってばかりですが
自分の心が痛むようなことをするのは、できるだけ少なく生きたいと思います。
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