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恐怖と防衛に関わる脳システムとは?

生後9ヶ月の我が子はいまだ顔に蒸しタオルを当てられるになれません。

毎朝、お顔拭きでタオルをもって近づくのですが、視界にタオルを持った私が目に入ると、バタバタ遊んでいたとしても、ハッと動きを止め、その後捕まえられてタオルが顔に当てられると猛烈な勢いでバタバタして抵抗を示します。

赤ちゃんでなくても、こういった行動はウサギから成人ヒト科までいろんなところで見られるのではないかと思います。

なにか怖いものにあったら、ウサギだろうがヒトだろうが、まずピキッと身を固める。そして怖いものに捕まってしまったら全力でバタバタと暴れだす。

なぜこういうことがおこるかというと怖いものにあったら動きを止めることで捕食者に見つけられるリスクが減ることが考えられます。

かくれ鬼でもないのですが、鬼がいる所では下手に動くよりもそっと身を隠しておいたほうが安全でしょう。

さすがに鬼の手が自分にかかったような状態ではじっと黙っていたら食べられてしまうので、猛烈に暴れる。

そんな感じで鬼(恐怖対象)と接近するときには、身を固める、暴れだすの二通りの行動パターンがあるのではないかと思います。

今日取り上げる論文は、この二通りの行動パターン、つまり恐怖対象との遭遇初期の身を固める動作と遭遇末期(接触期)の暴れだす動作の脳活動の違いについて調べたものです。

結論を述べると身を固める動作では前帯状皮質の前方領域を中心とするネットワークの活動が高まり、暴れだす行動パターンの時には中脳を中心とするネットワークの活動が高まっていることが示されています。

こういったことから恐怖対象に接した時の行動パターンでも、身を固めるような時と暴れだす時では中心となる脳の領域も異なること、

また暴れだすときにまともな運動にならないのは古層の脳、つまり中脳中心のネットワークの活動が高まるからではないかということが述べられています。

【要旨】

「身に危険が差し迫った時の行動として、身を固める、あるいは暴れだすという二つの防御的適応行動がある。捕食者がいるような状況では、捕食者に遭遇して間のない状況では身を固めることで捕食者に発見されるリスクが少なくなるというメリットがある。それに対して暴れだすという選択肢は実際に捕食者に攻撃されてから発動される。今回ヒトを対象に擬似的な捕食者との遭遇状況を設定し、その時の行動と脳活動について機能的MRIを使用して解析を行った。結果、見をすくめるような行動が見られた時には前帯状皮膝下部、海馬、扁桃体に活動が見られたのに対し、暴れだす行動では中脳と前帯状皮質背内側部に活動の増加が見られた。また捕食者に発見されるリスクが低い時には右前帯状皮質膝前部に強い活動が見られ、これは暴れだす状況では低い活動となっていた。以上のことから捕食者に接触して暴れだすような状況下ではパニックに陥り、移動能力が著しく混乱すること、またこのような行動パターンは中脳の活動増加と関連していることが考えられた。さらに恐怖対象に接するに際し高次前脳部が恐怖の制御に関わり、恐怖対象と濃密に接触した後の混乱行動は中脳との連絡から生じる自動的な行動であることが考えられた。」

参考URL:From threat to fear: the neural organization of defensive fear systems in humans.

コメント

実験ではロードランナーみたいに二次元の画面上で敵から逃げまわるような課題を行ったようですが

若い人はロードランナーなんてファミコンのゲームは知らないかもしれないけど

そんなのと電気ショックを組み合わせて実験を行ったみたいです。

ロードランナーでもテトリスでも、もういよいよだめかもという時にはバタバタと変なコントロールをしてしまうのだけれども

これは原理的には捕食者に捕まってバタバタと暴れる反応と一緒の脳活動かなと思いました。

パニックになりやすい人、なりにくい人というのがいると思うのですが、私は圧倒的に前者で

中脳の活動が活発なこのカラダは変えようがないので、人一倍パニックになるような状況にならないように、先回って準備するのが習い性になりました。

結果として仕事が早くなったり、段取りがいいとか準備がいいとかでほめられることも多くなったのだけれども

こういうのはパニックになりやすい脳のおかげかなと思ったりもします。

人と動物が違う点は、人は生まれ落ちたこのカラダから決定的には決定されないということなのかなと思います。

脆弱な能をもっていたとしても行動方略でカバーできるし、制度、技術、いろんなものでヒトはヒトの生まれ持った体に必ずしも制限されない。

ヒトの歴史というのは、所定の与えられた肉体をどこまで超えていけるかという歴史なのかなという気もします。

遺伝子をいじってどうのこうのという話も、この流れから行けばおそらく不可避的なものなのかなと思ったりします。善悪はわかりません。多分、数百年後の人類が後付で善悪を決めてくれるでしょう。

約4ヶ月の扁桃体シリーズも今日で終了となります。あすから社会脳をテーマに進めて行きたいと思いますのでよろしくお願いします。

 

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