
「自己と他者のメンタライジングにおける共通した神経回路」
小林一茶の句に「やせがえる負けるな一茶ここにあり」というものがありますが、この句に限らず人間というのは感情移入の強い生き物だと思います。
この感情移入も極まってしまうと時に自分と他人の区別もつかないということがあるかと思うのですが、脳はどのようにして自分と他人を区別しているのでしょうか。
今日取り上げる論文はこの脳における自他の区別について調べたものです。
結論を述べると自分のことを認識する時と他人のことを認識するときには基本的には同じシステムで処理されていることが述べられています。
他人ごととは思えないというような感情はこの辺の仕組みによるものなのかなあと思いました。
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【要旨】
自己と他者を認識するときの神経基板については様々な共通要素が提唱されているが安静時にそれらの要素がどのようにして相互作用を果たしているかについては明らかになっていない。さらに高次の認識に基づいた推論的な理解が低次の認識システムである身体感覚的なシミュレーション理解とどのように関連しているかについても明らかになっていない。今回機能的MRIを使用し高次の推察的な認識を行っている時の機能的連結解析を行った。結果自己と他者に共通して活動する領域として腹内側前頭前野、後帯状皮質/楔前部、側頭頭頂接合部が示された。低次の身体的な認識に関わる領域としては前頭弁蓋部/腹側運動前野、前島皮質、一時感覚運動野が示された。これらの結果から自己と他者は基本的には同一の神経基板によって処理されること、また低次の認識と高次の認識は結びついていることが示された。
参考URL :Shared neural circuits for mentalizing about the self and others.
コメント
少し詳しい話を書くと(興味のない方はスルーしてください)
脳はいろんなシステムが組み合わさってできているのですが、その中でも「社会脳」という範疇でくくられるあるシステムがあります。
その社会脳システムの一つは「理詰めシステム」というようなもので理詰めで相手の心を探るようなシャーロック・ホームズのようなシステムです。
社会脳システムのもう一つは「感じるシステム」というようなもので、パッと見ただけで相手の心を感じ取ってしまうそんなシステムです。
この「理詰めシステム」と「感じるシステム」の2つでコミュニケーションが円滑に図られ、かつこれが自分でこれが他人というふうに認識できるのですが
この論文の研究結果によるとこの2つのシステムは別々に動いているわけではなく、リンクして動いており
これは他人ではなく自分だと認識するようなときには理詰めシステムのほうが若干強く働いているということが述べられています。